2020年から「改正省エネ基準制度」が義務化されると言われていたこともあり、近年広く知られるようになった高気密・高断熱住宅。補助金が適用されるZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)の1つの要素にもなるので、住宅を建てる方の興味関心も高まり予備知識を持って工務店と商談をする方も多くなりました。
ハウスメーカーや工務店などの広告やモデルハウスでは「あたたかそうな家」「省エネな家」など良いイメージしか語られませんが、それら性能面のメリットとは裏腹に、息苦しい、夏は暑いなどのデメリットもいくつか耳にします。その実態について検証していきます。
- ZEH( ゼ ッ チ )とは
- Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略。断熱・省エネ・創エネ で、住宅の年間エネルギー消費量を正味(ネット)で、おおむねゼロにする住宅のこと。
- 住宅省エネ基準を知ることで光熱費削減の目安が分かる
- 高気密高断熱住宅のデメリットから問題解決方法が分かる
目次
高気密・高断熱とは
まず、高気密・高断熱とは具体的にどのようなことを指すのかをご説明します。
- 高気密とは建物の隙間を限りなく少なくして空気の出入りを最小限にすること。
- 高断熱とは外壁に温度が伝わりにくい素材を入れるなどして、室温が外気の温度に左右されないようにすること。
住宅全体が密閉・保温された空間になり、冷暖房の効率が上がってエネルギー消費が少なくなるため、光熱費が抑えられ二酸化炭素の排出も減らせます。
家計にも地球にも優しい住宅性能と言えます。
高気密・高断熱は住宅省エネ基準の評価対象のひとつ
省エネ基準について
国では、建築物省エネ法において、住宅の省エネに関する基準(省エネ基準)を定めています。住宅の省エネ性能の評価には下記の2つの基準が用いられます。
- 屋根・外壁・窓などの断熱の性能に関する基準(外皮基準)
- 住宅で使うエネルギー消費量に関する基準(一次エネルギー消費量基準)
引用元:建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)の概要
監修:国土交通省 発行:一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC) pdf(9.3MB)
高気密・高断熱は1の外皮基準に該当し、その性能を上げるためには住宅の至るところに備えが必要です。
- 日射をさえぎる軒
- 高断熱なサッシ
- 断熱材の種類や工法
など、総合的な観点から評価が行われます。
言い換えれば高気密・高断熱住宅は省エネをいかに効率よく実現させるかのための舞台装置。2の一次エネルギー消費量基準を充すために
- 設備(空調、 給湯、照明など)
- 創エネ (太陽光発電など)
に配慮してはじめて、省エネ効果の本領を発揮することができるのです。
断熱性能は数値で表すことができる
Ua値とは
断熱性能はUa値(外皮平均熱貫流率)で示されます。
「外皮」とは、家の外側の部分(壁・屋根・窓・床・基礎)を指します。住宅で室内から逃げる熱量は、窓や壁などの性能によっても異なります。この室内から外に逃げる熱量を、外皮全体の面積で平均したものをUa値で表します。
単位は【W/㎡・K】が用いられ、「W」は逃げる熱量、「㎡」は外皮面積、「K」は室内外の温度差を表しています。
値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネルギー性能が高いことを示します。
地域区分
国が定める省エネ基準では、日本各地において、Ua値の基準が設けられています。
乱立する基準と課題
なお、その他にも「ZEH」や「HEAT20」など国や団体などがそれぞれUa値の基準を定めており分かりにくくなっているのが現状です。我が家はどこを目指すか、についてはこの後に課題として述べますが、情報収集しながら検討していきたいところです。
光熱費はどれぐらい減らせるの?
下記は建築物省エネ法で定められている4ランクの基準における一次エネルギー消費量削減率をグラフ化した資料です。「省エネ基準」をベースに「誘導基準」「トップランナー基準」「ZEH基準」と評価が上がっていき、それぞれBELSという認証制度によってランク付けされています。
ZEH基準を満たした場合、省エネ基準と比べて20%以上の削減が見込めます。
※一次エネルギー消費量:住宅で使うエネルギー消費量に関する基準。設備性能(空調、 給湯、照明など) 創エネ性能 (太陽光発電など)
引用元:快適・安心なすまい なるほど省エネ住宅 監修:秋元孝之(芝浦工業大学 建築学部 建築学科 教授) pdf(18.5MB)
では、これまでの住宅と比較した場合、省エネ住宅では年間どれぐらいの光熱費を削減できるのでしょうか?
全国的に見ても、省エネ基準にするだけで年間で6万円以上の節約になります。また、さらに高度な省エネ住宅(ZEH基準相当)にした場合、温暖な地域ではさらに6万円以上の削減、北海道などの寒冷地ではなんとさらに12万円以上もの削減というシュミレーション結果が出ています。
引用元:快適・安心なすまい なるほど省エネ住宅 監修:秋元孝之(芝浦工業大学 建築学部 建築学科 教授) pdf(18.5MB)
一生の買い物となるマイホームですから、長い目で見た場合のコストパフォーマンスを考えると、多少費用がかかってもしっかりとした施工で実現したい住宅性能であると言えます。
どこまでを目指す?
高気密・高断熱住宅の基準について
では、どうすれば高気密・高断熱住宅を手に入れられるのでしょうか?また、どこまでの基準を目指せばいいのでしょうか?
断熱のUA値に関しては先ほどもご紹介したように「省エネ基準」や「ZEH基準」などで目安を知ることはできますが、それぞれ数値が異なり、どこを目指すべきかわかりにくいこと、また、気密のC値に至っては、国が定める「省エネ基準」でも数値は決められておらず、そのためか積極的に取り組んでいる建設会社も少ないというのが実状です。
ただ、基準が無いのは必要無いからではありません。高気密と高断熱は必ずセットで効果を発揮するものであり、気密だけいい加減では全く意味がありません。それどころか、かえって劣悪な室内環境を作り出すことになり、最悪の場合、結露やカビなどの発生で住宅の劣化に拍車をかけることになりかねません。
マイホームを手に入れてからあれこれ支障が出てくるより、計画中の今から、高気密・高断熱住宅について正しい情報を集め、対策を講じておく必要があります。
高気密・高断熱住宅のデメリット
高い省エネ効率をもつ設備を備えることで、光熱費などの経済性の面で優れているのみならず、住む人の体に優しい室内環境を実現することができる高気密・高断熱住宅ですが、デメリットもあります。以下に口コミなどでよく見かけるデメリットをまとめてみました。()内はデメリットの要因です。
- コストが掛かる(施工)
- 結露リスクを高める場合がある(施工・換気)
- 石油ストーブが使えない(換気)
- シックハウスやアレルギーになる(換気)
- 二酸化炭素濃度が高くなる(換気)
- 夏場に熱気がこもる(換気)
- においがこもる(換気)
- 湿度管理が必要(換気)
- 開放感に欠ける(施工)
これらを図式化すると大きく2つに集約されます。
大別すると換気による問題と施工の問題の2点が挙げられます。
換気の問題について
高気密・高断熱が保証された住宅を建てたとしても、適切な換気が行われなければ、快適空間は実現しません。
住宅の換気は建築基準法で定められています。
昔の住宅と違い、高気密・高断熱化された住宅は密閉された居室内の空気がこもってしまうため、家具や建具の接着剤などの臭気によるシックハウス症候群や、台所やストーブの火器による一酸化中毒のリスクが発生します。
これを回避するために24時間強制的に換気する仕組みの設置が義務化されているのです。
参考:換気に関する法規制について(国土交通省のサイトへ)
換気には
- 空気の取り入れ・排出の両方を換気扇で強制的に行う第1種
- 屋外から取り込む空気「給気」側のみを換気扇で行う第2種
- 屋内の汚染された空気を換気扇で強制的に吐き出す第3種
の3種類があり、建設する住宅やお住まいの温度環境などでいずれかを選定して住宅に装備します。
最も多く採用されている第3種は低コストで計画換気が可能ですが、気密性が低い住宅では、計画換気がおこなわれないので注意が必要です。
換気方式の中でも最も確実な換気が可能で空気の流れを制御しやすいのが第1種です。設置コスト、ランニングコストが高くなると言う意味で、費用面でのデメリットはありますが、比較的気密性の低い住宅でも安定した換気効果が得られ、戸建・集合住宅ともに使用可能です。
コストやメンテナンスだけでなく快適性も考慮して、理想的な空気の流れを検討する必要があります。
施工の問題について
施工の問題について、お伝えしておきたい重要なポイントがあります。
高気密・高断熱住宅は、冬季に冷気を、夏季の熱気をシャットアウトし、冷暖房効率を良くする省エネの住宅です。工務店は、なぜ高気密・高断熱住宅のような省エネ化が必要か、建築主に説明することが義務付けられています。
しかし、
- そういう快適な住宅を本当に手に入れられるのか
ここについては残念ながら胸を張って断言することはできません。
なぜなら、ほぼ全ての工務店が「高断熱・高気密住宅」を掲げているものの、その実情は工務店によって基準は様々だからです。
また、工務店が高い基準を掲げていたとしても、最終的には実際に工事に当る棟梁の腕前や裁量に大きく左右されることも事実です。
施工の問題に備える方法
施主である一般の方が工務店の断熱・気密性能が本当に高いかどうかを知るのは簡単ではありませんが、家族にとって快適な居場所を作るためには施主自身が情報収集をして、自分なりの判断をしていく必要があります。
そこで重要になってくるのが、下記の3つです。
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情報収集
施主である一般の方が工務店の施工技術が本当に高いかどうかを知るのは簡単ではありませんが、家族にとって快適な居場所を作るためには施主自身が情報収集をして、自分なりの判断をしていく必要があります。 後々メンテナンスをしながら大切に住み続けるためにも役立つ知識となりますので、ぜひ取り組まれることをおすすめします。 ただし、Web上には多くの情報が溢れており、間違いや悪意のあるものも少なからず目にしてしまいます。過剰な情報収集によって工務店への不信感が募り、楽しいマイホームづくりのはずが、疲弊してしまって本来の目的を見失ってしまうことになりかねませんので、程々に取り組まれることをお勧めいたします。
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工務店選び
施工を依頼しようと決めている工務店の口コミの評価や実際に建っている住宅の確認をしましょう。実際に建っている住宅の見学は、工務店が行う「完成内覧会」に参加することで出来ます。お客様の新築物件を入居前に見学者用に開放してくれることがあります。また、建築中の建物内部などを見学する「構造見学会」をおこなう工務店もあります。そういった工務店は構造や施工に自信があるとも言えます。またとない機会なので行くことを是非お勧めします。
そこで注意して見ていただきたい点は、- 冬季や夏季に快適な住宅か
- 結露が発生している箇所、カビが発生しそうな箇所が無いか
- 他の部屋は快適な温度なのに、温度が違う(不快な温度の)部屋が無いか
など、自分の目や耳で確かめることが重要です。
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コミュニケーション
工務店とは常にコミュニケーションをしっかりとりましょう。
断熱性について
「断熱欠損が心配なのですが御社は大丈夫ですよね?」とさりげなく聞いてみるのも良いと思います。あるいは、施工中の現場も確認したいと相談して、実際に足を運び現場チェックすることをお勧めします。素人の自分では見分けがつかないと思われるかもしれませんが、断熱欠損は基本的に充填不足なので一般の方が見ても気づけるものです。
気密性について
省エネ基準などで国が示す項目には入っていないためハウスメーカーや工務店でも基準を設けていないことが殆どです。また、たとえ基準を設けていたとしても、実際にその性能がクリアできているかどうかは「気密測定」をしなければわかりません。お見積もりの段階で「気密測定」をしたいと伝えておくことをお勧めします。
測定のタイミングについても、完成後ではなく、後で手直しが可能なタイミングを工務店に教えてもらい、スケジュールに組み込んでもらいましょう。工務店側も、家が建ってから施主とトラブルになるよりも現場で質問や相談されるほうが良いので、断熱性や気密性のことに限らず、疑問点は常に質問や相談するなどコミュニケーションをとることをお勧めします。そもそも工務店の完全主導で施主の相談を聞かない雰囲気のある工務店は要注意です。
また、こちらの資料でも、「良い工務店を見極めるための方法例」をご紹介しています。「断熱素材の特徴とメリットデメリット」についても詳しく書かれていますので、ぜひご活用ください。
【無料】
住宅の断熱材選びの本当のコツ
PDF資料ダウンロード
断熱素材の特徴とメリットデメリット、
良い工務店を見極めるための方法例など、
快適な住まいを実現するための豆知識をご紹介しています。
ここまでのポイント
高気密・高断熱とは
- 光熱費などの経済面、快適性などの健康面でも、住宅にとって欠かせない大切な性能
- 適切な換気を行なってはじめてその快適性を発揮する
- 施工の問題に備えるためには「情報収集」「工務店選び」「コミュニケーション」が重要
デメリットから見えてくる、高気密・高断熱住宅と全館空調のベストマッチングの理由
全館空調とは、住まい全体の空調を一括で管理できるシステムのことです。家中に張り巡らせた空気の通り道を通じて冷暖房や換気などの空調管理を行います。
一般的な冷暖房設備と言えば、各部屋へエアコンを設置するスタイルですが、全館空調は一つの設備で換気・空気清浄・冷暖房の役割をこなし、24時間体制で住まい全体を快適な室温・湿度に調整します。
工務店選びのひとつの指針として
施主が頭を悩ませる「高気密・高断熱」性能の判断や、実際に依頼する工務店選びに関して、ひとつ解決策としてご提案したいのが、お家の冷暖房機能に全館空調を採用してみるということです。
全館空調を設置する場合、その効果を最大限発揮するために厳しい建築基準が設けられているはずです。つまり、その基準をクリアした工務店なので、劣悪な施工にはなりにくいと言えます。
また、自社で扱っている全館空調の性能を担保すると言う意味でも施主側の細かな要望に工務店がきちんと応えてくれる可能性が高いとも考えられます。
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高気密・高断熱のメリットを活かせる
高気密・高断熱住宅において、最大の懸念点は換気です。
全館空調は、夏も冬も家中どこでも快適温度が保たれる空調設備ですが、365日冷暖房を運転させるシステムではありません。全館空調のほぼ全てが第1種換気システムを標準装備しており、冷暖房が不要な季節は常に換気のみ運転モードにしておくことが可能です。
高気密・高断熱住宅のメリットである冷暖房効率の良さや快適性をしっかりと享受しつつ、デメリット要素の課題となっている換気についても解決できます。
他の冷暖房設備をいくつも揃える必要がなくなるため、メンテナンスや管理もシンプルで安心です。
また、省エネルギー住宅の建設について説明が義務化されている昨今では、メーカーの技術向上により高いコストパフォーマンスを発揮する空調関連製品が普及しています。
全館空調の第1種換気システムのほぼ全てが採用している熱交換型システムは、少ない電力で効率よくエネルギーを回収することができるため、高い省エネ効果を発揮できます。
まとめ
全館空調は設置コストやランニングコストが高く諦めてしまう方も多いですが、先ほどご紹介した高気密・高断熱住宅におけるエネルギー消費量のデータからも読み取れるように、コストの判断は、設備面、住み始めてからの期間、快適性などを含めて総合的に判断していくとわかりやすいです。
現代の住宅にとって必要不可欠と言える「高気密・高断熱」の性能を最大限に生かすためにも、省エネや快適空間作りに必要な設備をバランスよく取り入れながら、ご自身やご家族の幸せのために夢のマイホーム作りを楽しんでいただけたらと思います。
コスト面でご不安のある方はこちらもご覧ください。
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