全館空調を導入したい、もしくは、高気密・高断熱住宅を建てたいとお考えの方にとって、心配事のひとつに「基礎断熱にした場合のシロアリ被害」があると思います。残念なことに現時点では、シロアリ被害を100%なくすことは不可能と言われています。では、どのようにすれば被害に遭う確率を減らせるのでしょうか。 今回は専門家監修のもと、「基礎工事」と「シロアリの生態」という2つの観点から考えるシロアリ対策についてご紹介します 。
- 普段は地中で活動しているシロアリが住宅に侵入するときは、ほぼ100%、基礎部分から!
- ベタ基礎や玄関等の施工方法によりシロアリの侵入経路となっている箇所を解説
- シロアリの生態から考える有効な対策をご紹介
監修者:齋藤 武史(株式会社エコパウダー)
目次
基礎断熱でも安心!
シロアリ被害を受けにくい基礎構造とは?
普段は地中で活動しているシロアリが住宅に侵入するときは、ほぼ100%、基礎を経由して侵入してきます。
そのため、住宅の基礎部分の構造を工夫することによって、シロアリ被害を減らすことができます。では、一体どのような構造にすればいいのでしょうか?
シロアリにはベタ基礎が有効
基礎工事にはさまざまな種類がありますが、「ベタ基礎」という工事がシロアリ対策には有効とされています。 なぜなら、ベタ基礎はコンクリートで床下一面を覆ってしまうため、物理的にシロアリが地中から床下内部へ直接侵入することができないのです。
基礎工事の詳細はこちらを御覧ください。
【欠陥住宅を防ぐ!】新築を検討するなら、基礎工事を理解しておこうベタ基礎の要注意ポイント
ベタ基礎を採用する場合に注意したいのが、コンクリートで基礎を形成する際にできる継ぎ目部分です。一般的なベタ基礎の工事(コンクリート打設工事)は、平らなベース部分と側面や仕切りとなる立ち上がり部分の2段階に分けて行います。ベース部分の上に立ち上がり部分を施工する際に、セパレーターという金具を使用します。このセパレーターをはさむことでコンクリートにできるわずかな継ぎ目が、シロアリの侵入経路となってしまうのです。
コンクリートの継ぎ目をなくすには?
それでは、ベタ基礎と呼ばれる基礎工事の方法に注意してみましょう。ベタ基礎の施工方法はさまざまありますが、コンクリートの継ぎ目を無くしたい場合、ベースも立ち上がり部分も同時にコンクリート打設する「一体打ち工法」が有効です。「一体打ち工法」は一般的なベタ基礎の工法より費用がかかるので、予算内に収まるようであれば工務店に相談してみましょう。
その他、「半セパ」と呼ばれる、立ち上がり部分の幅の半分サイズのセパレーターを使用する方法もあります。基礎の内側にセパレーターをはさむため、隙間が外側まで貫通しません。いずれも、物理的に基礎の外周からシロアリが侵入できる経路となるわずかな隙間をなくすことができます。
画像引用元:傾向2 ベタ基礎の隙間から侵入
基礎断熱の施工方法や断熱材にも注意
高気密・高断熱住宅は室内の空気が逃げにくく、外気温の影響を受けにくいため、家全体が密閉・保温された空間となります。冷暖房効率が良く、光熱費が抑えられるとも言われています。高気密・高断熱住宅では基礎部分にも断熱材を使用します。
断熱材には大きく2種類に分けることができます。
- 繊維系素材
- プラスチック系素材
このうち、天然繊維系素材にはシロアリがエサとして好む成分であるセルロースが含まれています。天然繊維系素材の断熱材を使用する場合は、先にご紹介したコンクリートの隙間ができない工法で外から侵入できない基礎を作り、断熱材は基礎立ち上がりの内側に張る「基礎内断熱」で施工するなどの工夫が必要です。断熱材選びに関しては、資料をご用意しておりますのでぜひダウンロードしてみてください。
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住宅用の断熱材は様々な種類がありますが、それぞれ一長一短の特性があります。その特性や注意点、高断熱住宅を建設するコツをまとめました。
資料ダウンロードはこちら基礎断熱の詳細はこちらを御覧ください。
『基礎断熱』とは?『床断熱』との違いとメリット・デメリット、種類について
まだあった!シロアリ被害の意外な入り口「玄関」と「配管」
実は、シロアリ被害の入り口として意外に盲点となっている箇所があります。それは「玄関」と「配管」です。
玄関は、間取りによって基礎のベースと玄関土間の間に隙間ができてしまい、シロアリの侵入が容易となっていることが多いのです。基礎のベースと玄関土間の間の隙間を防ぐためには、玄関部分の施工方法にも工夫が必要です。設計の際に工務店に相談しておくとよいでしょう。
配管は、基礎内にシロアリが侵入する隙間が生じやすいため、あらかじめコーキングで塞いだり、防蟻処理を施しておく必要があります。
参考:4月~5月は羽アリに注意を、及び、日経ホームビルダー(2010.8 p.60)
画像引用元:配管やコンクリートの隙間はシロアリが侵入しやすい
基礎からの侵入経路対策まとめ
- 普段は地中で活動しているシロアリが住宅に侵入するときは、ほぼ100%、基礎部分から
- シロアリの侵入を防ぐには、以下の点に注意が必要。
- ベタ基礎の施工方法(コンクリートの継ぎ目対策)
- 断熱材の素材選び
- 断熱材の施工方法
- 玄関の施工方法や配管の隙間処理についても工務店に相談
さて、次はシロアリの生態を理解した上で被害を減らす方法を考えていきます。
シロアリの生態から考える予防策
シロアリは”森の分解者”
シロアリは、一般的に害虫というイメージがあると思います。しかし実は、地球上で最も数の多い昆虫と言われ、自然界ではシロアリがいなければ生態系が成り立たないほど重要な役目を担っています。シロアリは木の幹に豊富に含まれる「セルロース」を栄養とする数少ない生物で、倒木などを土に還すため”森の分解者”と呼ばれています。そんな、自然界では必要とされるシロアリが、人間の住む住宅にとっては恐ろしい天敵となってしまうのです。
参考:シロアリについて
シロアリの種類と特徴
日本の住宅に被害をもたらすシロアリは、おもに「ヤマトシロアリ」「イエシロアリ」「アメリカカンザイシロアリ」「ダイコクシロアリ」の4種類です。
住宅に被害を及ぼす 主なシロアリ |
ヤマトシロアリ | イエシロアリ | アメリカカンザイシロアリ | ダイコクシロアリ |
---|---|---|---|---|
生息地域・分布 | 北海道北部を除く日本全土 | 千葉県以西の本州南岸で多く見られていたが、最近では日本海側の地域でも発生 | 宮城県から沖縄まで29都道府県に点在 | 主に沖縄県、奄美大島以南、東京都小笠原諸島にも生息 |
特徴 | 湿度の高い場所を好む。床下をはじめとする1階部分での被害が多い | 世界最強の加害力といわれ、半年で通し柱を2階まで食害することも | 羽アリが木材に直接入り込んで巣をつくるため、家中どこでも、家具や造作材にも被害が出る | 乾燥に強いが、寒さには弱い |
シロアリの侵入経路
前述の通り、シロアリのエサとなるのは木材に含まれるセルロースという成分です。イエシロアリやヤマトシロアリはセルロースにたどり着くために地中の巣から木材を目指して移動し、建物内に侵入します。移動の際に使われるのが「蟻道(ぎどう)」と呼ばれる通路です。蟻道は木材のカスなどにシロアリの分泌物を混ぜ固めて作ります。トンネル状になっているため人目や外敵に触れることなくエサや水を地中にある巣まで安全に運ぶことができるのです。また、セルロースにたどり着くためなら、シロアリにとって食べ物ではなくても、目の前にあればかじって穴を開け通り道を作ってしまいます。
ヤマトシロアリの蟻道(ぎどう)
地上からコンクリートの基礎に蟻道(ぎどう)を作り、木材に向かって蟻道(ぎどう)を構築する様子
参照:ヤマトシロアリ研究所
イエシロアリの蟻道(ぎどう)
住宅基礎外部にできたイエシロアリの蟻道(ぎどう)
参照:シロアリ一番
シロアリ被害の特徴はなんといってもスピードが早いことです。1年から数年で家をボロボロにされてしまうことも少なくありません。被害が進むと、駆除処理だけではなく修繕工事まで必要になり、数十万を超える出費となってしまうこともあります。そうならないためにも、新築時より半年から1年を目安に定期的な点検が必要です。自宅の外周を回って、基礎部分に異常が無いか確認しましょう。蟻道(ぎどう)に早めに気づくことができれば、被害を最小限に抑えることができます。住宅の内部・外部にこのような蟻道(ぎどう)が見られたら、早めに専門業者へ調査依頼をしましょう。
被害を受けやすい場所
地面に近くて湿気が多い場所ほど、シロアリが発生しやすい場所といえます。
特に被害が多いのは、次のような場所・部位です。
- ウッドデッキ
- 床下
- 玄関の上がり框
- ドアの枠材、窓の枠材
- 和室の畳周り
- お風呂・トイレ・洗面所などの水場
- 窓の結露がたまりやすい場所
- 屋根裏、天井裏(アメリカカンザイシロアリの場合)
ウッドデッキ
床下
画像引用元:シロアリはコンクリートを通過できるのか?
玄関の上がり框
画像引用元:玄関框がシロアリの被害にあった時は!
ドアの枠材
新築時の対策3ステップ
新築時に対策しておくことでシロアリ被害に遭う確率を減らせる3ステップをご紹介します。
- 床下を風通しのよい点検しやすいつくりにする
- 木材に防腐・防蟻処理をする
- 侵入経路への対策
床下を風通しのよい点検しやすいつくりにする
シロアリが好むのは、湿気が多く風通しの悪い場所です。そのため基礎の構造によっては、床下はシロアリにとって絶好の住環境になります。床下の通気性を考慮し点検しやすい構造にしておくことが大切です。
木材に防腐・防蟻処理をする
住宅を建築する際に、主要な木材に、安全で長持ちする『エコボロン』などのホウ酸系処理を施しておくと、シロアリ被害を抑えられます。空気を一切汚さないため、小さなお子様やペットへのご心配も無用です。
侵入経路への対策
配管の隙間部分などシロアリが侵入してきやすい部分に薬剤を散布・注入し、侵入経路からシロアリを遠ざけましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?基礎断熱のシロアリ対策として、大きく2つご紹介させていただきました。
-
1.基礎工事でできる対策
- ベタ基礎の施工方法を確認して隙間を作らない
- 玄関の施工方法、配管の隙間処理に注意して侵入経路を無くす
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2.シロアリの生態から考える対策
- 床下にシロアリの好む環境を作らない
- シロアリの生態を知って異変を察知できるようにする
- 半年〜1年を目安に定期的な点検を実施する
新築時のシロアリ対策を万全にして、安心して長く暮らせる住宅を作りましょう。
床下部分をシロアリにとって住みにくい環境にしておく方法の一つとして、基礎内部に施工する『ECO床暖』の導入も有効な対策です。シロアリ対策になるだけでなく、おうち全体の空調、及び、1F床冷暖房・換気・除菌脱臭もできる全館空調システムです。
【おまけ】床下点検口はどこにつける?
シロアリ被害の点検を業者に依頼する場合、作業員が点検口から床下に入って目視で調査を行います。その場合、点検口の位置を把握していなかったり、点検口の上に家具が置いてあったりすると作業開始までに手間取ってしまいます。住宅を建てる際には、点検がスムーズに行えるようシミュレーションしながら、点検口の場所や大きさ・床下の高さなども設計段階から把握しておきましょう。
1981年(昭和56年)埼玉県生まれ。
中央大学法学部卒、グロービス経営大学院修士課程修了(MBA)。しろあり防除施工士、木材保存士、宅地建物取引士。
2002年に同社創業者・齋藤信夫が開発したホウ酸系防腐防蟻塗料『エコパウダーBX』(特
許製品)のシロアリ性能試験を実施して以来、シロアリに関わり続け、『安全と健康、住宅の長寿化、環境配慮』をキーワードに、ホウ酸系防腐防蟻剤の普及活動に努めている。同社の主力製品『エコボロンPRO』は2011年に(公社)日本木材保存協会認定を取得し、2015年には「草加モノづくりブランド認定」、2019年には「キッズデザイン賞」を受賞している。